ゴミ -trash-
ゴミ屋敷
朝になり、男は自動車のドアとボンネットの破片を針金で巻き、その巻いた針金に鉄筋を丁寧に結び付け、さらにワイヤーで巻い た。その鉄筋は上空に向けて広がるようでもあり、結びつけられたボンネットの中へ集約しているようでもあった。民家であった頃の 二階にあたる位置で、男は座り込み、黙々と動いていた。鉄筋を足元の鉄屑に突き刺し、ドラム缶を丁寧に凹ませてその脇に置き、ま た針金で固定し、その上に自転車を乗せ、首を傾けてやめ、代わりに錆びたガードレールを乗せてやめた。針金は長い指のように鉄屑 を巻きながら空中の空間を掻き、空き缶は、荒々しく空間を埋める鉄屑の山の中で、一定の空間で配置されたように緻密だった。男は 自転車を眺め、ベニア板に穴を開け、その自転車を中に通して途中で止め、針金で巻き、ゆっくりとボンネットとドアとドラム缶の上 に置いた。自転車とベニア板が固定された物体とドアの角度を少しずつ変えると、それらが組み合わされたような大きな音がして、そ のまま固定された。男は自分の意識に集中するように顔をしかめ、その作業が手探りであるかのように、ゆっくりと、空き缶を間に入 れた。空き缶の色を変え、形を変え、配置を変え、その作業は数時間を要した。男はロープを使って地面まで下り、座るクッションの 部分を剥ぎ取ったパイプ椅子を三つ、抱えながらまた鉄屑の山を登った。男は鉄屑の山を登り、その上に鉄屑を積み上げ、形を変え、 配置を変え、また積み上げた。違和感のある箇所を剥ぎ取り、そこにまた別の木材や鉄屑を埋め、その上にまた積み上げ、その上にま た積み上げた。
「ゴミ屋敷」 中村文則『世界の果て』
交通事故で妻を亡くして以来動かなくなってしまった男が、
何日も経ってからいきなり意識を取り戻し、
作り始めたゴミ屋敷。
ここは小説の中で目撃してしまったゴミについて報告するトピックです。
2010年03月07日 14:14 by cymbalina
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