舌べら垂らす。左目痛む。赤いベルトで手首を縛る。マリーと名付けてふざける二人。誰もいないのに十二畳間。二人は地下で自由に 乗馬。ハイなテンション、ベルトが食い込む。舌べら垂らして馬になりきる。下の彼女に乗り張り切る。地下牢二人で暗かろう。金魚 とマリーがパッカパッカ。金魚とマリーがパッカパカ。金魚がぶたれて喜ぶ頬。マリーがぶって成立する法。女二人でお馬さん。ほと んど裸で赤いベルトで。
酔いの晴れ間に春画を具現。桜の陰に恋人潜ませ、展開させる思春期桃源。あれよあれよと脱いでいき、桜の花びら重なって。鬼と踊 って魑魅魍魎。右右左、左左右。鬼さんステップお上手ね。愛の言葉に神話を混ぜて、酔わせて倒してやっちゃって。大人が認める無 礼講。飲めや踊れや四月馬鹿。本気を出すのは明日から。解放感に導かれ、桜の花びら重なって。裸体を隠すピンクの花弁。ビーナス だってミロとは言わないはしたない肢体。花見もたけなわ最後の熱狂。桜にカップル寄ってきて。お酒がまわって酔ってきて、恋人誰 だかわからない。誰でもいいやと手を出して、背骨にぺろりと舌出して。気付くとそこには人間一人。あるのは大きな姿見一つ。私は 鏡を前にして、悲しく自慰よナルキソス。桜に化かされ馬鹿にされ。ふと仰ぐ青空背中にピンクの花弁。桜の花びら重なって、桜の花 びら重なって。
嘘でもいいのさ飛び込む術を知りたい
気まぐれでいいからこの空から早く逃げたい
みんながイヤホンしてるから独り言も気付かれない 世の中やなことだらけだと思っていたけど違うみたい
みんなが私を知らんぷり白眼を剥いても気に止めない 世の中やなことだらけだと思っていたけど大丈夫
こうしていつか消えていくみんなが私を忘れていくんだ世の中やなことだらけだと思っていたからもういいや
ある日、夢をみた。少年とも少女ともとれない子供が私に言う。夢から覚めないで。
私は子供の声に空を見た。子供はしきりに夢から覚めないでという。全てが光。
ある日、夢をみた。中性的な子供はしきりに私に言う。行かないで。
私は浮遊感に酔いながら、子供を見つめた。その子供は、小さい頃の私とうりふたつだった。
子供は繰り返す。行かないで。夢から覚めないで。
目を覚ますと昼過ぎで、外の喧騒は私をおいてけぼりにしていた。体がだるい。成長してしまった私は、不規則な生活に溺れ、あの 頃の影すら残さない。目の前にあの子供はもういない。夢から覚めた私はどこにも行かない。
腹を膨らませる雑なトーストに唾を吐くと、私は赤焼けた空を仰いだ。電柱に垂れる電線が、空を裂く。それにカラスが呼応するよう に鳴き散らす。カラスが鳴き散らす。私は、なるべく、まばたきを我慢して、赤い夕景を眺めていた。純粋な形を見つけるのは、その 空からは難しく、またそれを収める心を持っていないために、諦念を含む溜め息に希望を混ぜて、私は吐き捨てる。
カラスが鳴き散らす。私は目をつぶる。瞼の裏には、夕景が残っていた。ふと、レモンが赤かったら、きっと素敵なのにと、とりと めもないことを思う。赤いレモンを海に広げて、私はそれを、底から見ているのだ。酸素がないから苦しいのではなく、酸素がないか ら楽なのだ。そんな気持ちで、海に浮かぶ赤いレモンを仰ぎながら、私は海と空の境を錯覚して、気持ちよく酔う。赤いレモンを一つ 、掴んで、かじる。
私は海に浸かって、レモンを好きに使って。
カラスが鳴き散らす。目を開けると、真っ赤だった。私は、赤い空に飽きると、再び、トースターに食パンを入れた。雑な食パンに 、レモンティー。部屋を照らす夕日に、青い時計。
メガネをかけたカップル、可愛らしく歩く
一人は栗毛のマッシュルーム、一人は高校生
相合傘なんかをして、可愛らしく歩く
銀河鉄道の夜なんかを二人で読み合って
極悪非道のカップル、二人の前に立つ
女は栗毛のマッシュルーム、男は高校生
戸惑うさなかに助けも呼べず、二人は意識飛ぶ
女は女に男は男に、暴力振るわれた
残るは体に染み付く、生々しさの汗
メガネをかけたカップル、もう笑いあえない
痛む関節に汚れた体が、拒否反応示す
それきり二人はメガネを外し、心の病院へ
心の病院へ
心の病院へ
過去なんて記憶でしかなく、そして正確な記憶はない。記憶とはほんの小さな事実をたくさんの想像で固めただけで、あまりにも不確 かなものである。
私は今が掴み取れない。それをしたと認識した時点で、それは過去になっている。つまり、想像になっている。
私はそれを意識できない程の回数を連続することで生きていると思い込んでいる。
私には過去の連続しかなく、過去の連続は想像で出来た不確かなもので、つまり、私はあまりにも不確か。
どうして、こうして、立って、歩いているのか。奇跡に思える。
認識は掴もうとすると、砂のように手から溢れて過去になっている。私は過去を生きている。過去とは想像だ。私は想像で生きてい る。私は想像だ。私は実在しない妄想だ。
私は気が楽になった、
私たちはより良い過去を作るために不確かな今を頑張り、その結果未来は過去になる。とても不毛だ。想像の為に頑張らないといけ ないなんて。
階段のレトラレジー。街に跋扈する階段。うらぶれ、触れるだけで赤サビのつく階段。大理石が日光を反射する階段。
それは私たちを空間にいざなう。人は扉に新世界の予感を示唆する。
だが、私は階段にレトラレジーを感じる。問題はレトラレジーなんて言語は存在しないことだ。存在しない言語を使っていたのでは 、言語の本質である意思の伝達は到底かなわない。それでも私は階段にレトラレジーを感じる以上、こう言うしかない。
螺旋をまく階段。アリスは兎の穴に落ち、別世界に消えた。私は階段にそのような、一種の期待を抱く。たとえ、バリアフリー用の 短い階段にでさえも、だ。
階段は不思議だ。私は歩いているのに、上り、あるいは下る。誰が発明したのか、階段を。私はあなたに称賛を送ると共に畏怖を覚 える。
人が浮かべて良い発想を越えているからだ。これほど、シュールな発明は並みの人間の仕業ではない。
階段を探す。私はいつもの街を歩き、しばしばその見慣れた風景に退屈を覚える。そして、この見慣れた風景に、使用したことない 階段が無数にあることに気付いてしまう。
これはあまりにも不幸なことである。階段には先があり、現代の街並みは、歓迎されないものに、階段の使用を賛同しない。私はあ のビルと道を繋ぐ階段を上りたい。しかし、なんと、あのビルにはアポが必要だというではないか。私はビルには用はない。なくなく 階段を見送る。
歩道橋を上る。異質な階段である。道を避ける階段とはいささかひねくれた階段ではないか。空間ではなく通路に案内してくれる、 この階段を、私は嫌いになれない。だから、たとえ、信号が私を受け入れて身体を緑に染めていても、メッキの剥がれた歩道橋を上る のだ。道の上の道を歩く。
階段のレトラレジー。私は階段を探す。いつか、上るでもなく、下るでもなく、平行に階段を進みたい。しかし、私の理性がそれを 理解しない。まるで、ダリやエッシャーのような世界を。
段差の連続。それは音楽。私はあなたを踏む。あなたは、ハイヒールのかかとに音を上げる。それが、メロディをかなで、私は階段 を進む。
階段のレトラレジー、私は階段を探す。
夕日が部屋を紅く照らし、私たちの色彩を奪う頃、特にすることもなく、時間を時間として使っていた。
お姉ちゃんは開けた窓に寄りかかり、私はそれをベッドの上で丸まり、見ている。
風が髪を揺らすと、石鹸と優しさの匂いが狭いこの個室を満たす。お姉ちゃんは振り向かない。
薄いシーツを体に巻き、私はさらに丸くなった。お姉ちゃんが笑う。
「涼しいね」私はお姉ちゃんが風を吹かせているんだと思った。猫のように甘えた声で返事をし、私はわざとらしくお姉ちゃんを見 つめてみる。
お姉ちゃんはポケッーと見つめ返す。期待に満ちた視線はどうやらお姉ちゃんをすり抜け、紅い紅い夕陽に届いてしまったようだ。
「私も横になる」
私のシーツを優しく広げ、体がぴっちりと接するほど、お姉ちゃんは近づく。お姉ちゃんが全て分かった上で分からないふりをして るのか、分からないから分かったようなことが出来るのか、私は悩む。
Copyright(c)1999 FC2, Inc. All Rights Reserved.
@fc2infoさんをフォロー