雪の幻、それは現か1(小説)
惟盛×望美です。
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――――雪はいつも真っ白だ。
まだ足跡のない何処までも白い世界はとても美しい。きっとこんな白が
本当に純粋な白なんだと思う。
そっと降り積もった雪を掬いあげる。掌の体温で解け始めた雪が指の
隙間から水となって流れていく。雪解水は私の穢れた手を清めてくれて
いるようで、なんだかとても心が凪いだ。
みんなは私を綺麗だと言うけれど、穢れのなき神子様だと謳うけれど、
やっぱり人を殺したこの手はもう汚れてしまっているのだと思う。怨霊に
なったとはいえ、それらは元は人間だ。つまり私は仲間の為に、自分の
為に、この手で「人」を斬ってきた。
神子の清らかな手で浄化されることが怨霊になったもの達の望みなの
だ、と優しい天の玄武は言ってくれたけど、それでもやっぱり苦しさはなく
ならなかった。あなたを斬ってしまったこの手はもう、どうしようもなく醜い
ものにしか思えなかった。
――――惟盛さん。
私達に怨霊をけしかけ楽しそうに笑っていた。その裏では人の心が
“誰も傷付けたくないのに”と嘆き悲しみ悲鳴をあげていた。
どれほど悲しかっただろう。どれほど辛かったのだろう。怨霊となって
壊れていく心の片隅で必死に自我を保とうした、その心はどれほど痛
かったのだろうか。
そんな時、私に出来たことと言えば、彼を斬って浄化してあげることだ
けだった。今でもこの手には彼を斬った感触が残っている。この目は彼
の流した血の色を覚えている。彼はやっぱり人だった。
『――――私を浄化してくれて、ありがとうございます、神子殿』
消え逝く間際にふわりと微笑んでくれた、彼は優しくてとても綺麗な
“人”だった。
栗色の瞳から零れる涙がとても綺麗だった。
最期に見せた微笑みはとても美しかった。
気付いた時には何もかもが遅すぎて、私はあなたを好きになってしま
っていた。
続
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