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建築・土木・設備の芸術

残しておきたい先人の知恵

 

2008年06月03日 12:55  by 青龍18

コメント一覧 1件中、1~1件表示

  • 三弦トラス橋
    戦後のもので、大夕張ダムを建設するとき、森林鉄道が水没するので、その補償でつくられた(昭和三十三年)。古さからいえば 、同じ森林鉄道に架設された旧陸軍が開発した組立式の重構桁のほうが古い。今回は詳述できないが、わが国最初の溶接鉄道橋である ことが近年明らかになった(奈良一郎「幻の重構桁鉄道橋」『技術報』?東京鐵骨橋梁、一九九七年)。 トラス橋はふつう、弦を四 本もち、正面から橋をみると四角形にみえるが、三弦トラス橋は、弦が三本しかない。四角錐の骨組みを頂点でつないだ構造で、弦は 下に二本、上に一本なので、正面景は三角形になる。どこからみても三角形となり、まさしく立体トラス、立体三角形で、造形的にも 興味深い。
     森林鉄道は昭和四十一年(一九六六)に廃止され、以後、橋は放置されているので、渡ることはできなかった。
     四弦とくらべ一本少ない三弦! 使用鉄材量が約一割少なくてすむこと、安定性については、橋はダムの近傍に架設されている ので、水深が深く橋脚も高くなるので、三角錐にするほうが重心が下がり、橋は安定する。
     質より量が重視され、技術者の感性がにぶった戦後土木界には、「用・強」は考えられても「美」を考慮した構造物はあまりな いと考えられている。しかし三弦トラス橋のような構造物の存在や事実を知るとき、構造物を継承することと事実の記録と発掘は重要 な作業であることをあらためて実感する。
    大夕張ダムの下流にあらたに夕張シューパロ・ダムが建設中である。これが完成すると、大夕張ダムはもちろん三弦トラス橋も水 没する。この橋にかぎらず、グラビアで紹介しているわが国最初の溶接鉄道橋も水没する。
     故司馬遼太郎氏はかつて、土木に歴史と保存の哲学がないことを知って、「土木には文化がない」と喝破した。関係当局には、 橋をふくめ鉱山遺構を保存する気持ちは少しもないという。大夕張地区でおこなわれている鉱山遺構の保存運動は、北海道に開拓文化 が育つか否かの試金石といえる。地元の保存運動グループ(NPO)は、ワークショップというあたらしい試みをしながら、産業土木 遺産の利活用を提示している。古い産業土木遺産を利用したあたらしいまちづくりの試みを育てる意味でも、関係当局に再考を望みた い。

     

    2008年06月03日 13:05 by 青龍18